◆ 更年期とは、閉経を挟んで前後10年の時期のことを指します ◆
卵巣機能が衰退しはじめ、消失する時期にあたります。閉経の平均年齢は約50歳なので、標準的には大体45歳~55歳が「更年期」ということになりますが、閉経年齢には個人差があるため、早い人は40代前半で更年期に差し掛かることもあります。
更年期に出現する心身の様々な症状の現れ方は人それぞれです。
更年期症状が極端にひどく、日常生活にまで支障をきたしてしまう場合を更年期障害と言い、治療の対象になります。
◆ 更年期障害は、エストロゲンの分泌が急激に減少することによって起こります ◆
初経、妊娠・出産、閉経といった女性特有の体の働きを支配しているのが卵巣から分泌される女性ホルモン、とくに卵胞ホルモン(エストロゲン)です。
エストロゲンは40歳頃より低下しはじめ、更年期障害はこのエストロゲンの分泌が急激に減少することによって起こります。
脳の視床下部にある自律神経中枢に影響を及ぼして自律神経失調症を引き起こします。
また、この年代の女性を取り巻く家庭や社会環境の変化からくる心理的ストレスが大脳皮質・大脳辺縁系に影響を与え、憂うつや情緒不安定などの精神症状を引き起こします。
この自律神経失調症状と精神症状が相互に影響し合って、更年期障害の病状を複雑にしています。
◆ 様々な身体的症状および精神神経症状が現れるのが更年期障害の特徴です ◆
症状は、自律神経失調症状、精神症状、その他の症状に分けられます。
通常、自律神経失調症状と精神症状は混在しています。
自律神経性更年期障害の代表的なものは、ホットフラッシュ(顔ののぼせ、ほてり)、発汗などの症状です。
ホットフラッシュは閉経女性の40~80%に認められ、1~数年間続き、長期にわたる場合もあります。しかし、そのうち治療を要するものは25%とされています。
精神症状としての憂うつは、閉経女性の約40%に認められています。
また、最近の調査では、日本の更年期女性の特徴として、ホットフラッシュよりも肩こりや憂うつを訴える頻度が高いことがわかっています。
◆ まず血液ホルモン検査をすることをおすすめします ◆
更年期障害の疑いがある時は、専門医の診察を受け、まず血液ホルモン検査をすることをおすすめします。
更年期障害は、卵巣機能がまだ変動している時期にみられるもので、一定の時期が過ぎて卵巣機能が完全に低下し、全身の状態がホルモンの変化に慣れてくれば、自然によくなると考えられています。
そのため、一度だけの血液ホルモン検査では、エストロゲンが正常な値を示すことがあります。更年期と診断されるためには、老化した卵巣を活発にしようとして脳下垂体から大量に分泌される性腺刺激ホルモンの値が高いことを確認することが重要です。
また、更年期障害は、甲状腺や循環器などの内科疾患、整形外科疾患、脳神経外科疾患、耳鼻科疾患あるいはうつ病などの精神科疾患と類似した症状を示すことがあるので、複数の診療科の受診が必要になることもあります。
更年期障害の症状の程度は、クッパーマン更年期指数、簡略更年期指数などの質問用紙に答える方法によって、客観的に評価することができます。
それらの結果を元に、治療の必要性の有無を判断していくことになります。
◆ 更年期障害の治療の中心は、ホルモン補充療法です ◆
更年期障害の程度は、本人の性格、精神状態、周囲の環境などから影響を受けます。
まずは、生活習慣・生活環境の改善を図るのが基本です。
・ホルモン補充療法・
ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり)、発汗などを中心とする自律神経失調症状には、エストロゲンによるホルモン補充療法や自律神経調整薬などによる薬物療法が中心になります。自律神経性更年期障害は、ホルモン補充療法により約1カ月で症状の改善をみることができます。
一方、社会心理的要因により誘発されると考えられている精神症状性更年期障害に対しては、向精神薬を主体にした薬物療法と精神療法が有効ですが、精神症状のなかにはエストロゲンの欠乏に由来するものもあり、ホルモン補充療法が効果的な場合もあります。
ホルモン補充療法には、子宮がある状態でホルモン補充療法のみを続けると、子宮内膜がんのリスクが高くなってしまうという欠点があります。
そのため通常、子宮のある方にホルモン補充療法を行う時は、黄体ホルモン製剤を組み合わせて使います。
また、平均5年以上ホルモン補充療法を行っている女性では、行っていない女性と比べて乳がんの発症リスクが1.3~1.4倍高くなります。
ホルモン補充療法中は特に、子宮がん検診・乳がん検診・一般の健康診断を必ず年に1回は一通りのチェックを受けるようにしてください。
・漢方薬治療・
ホルモン補充療法の補助的役割やホルモン剤を使うほどではない場合、また、疾病によって、ホルモン補充療法を受けられない患者さん、ホルモン補充療法を希望しない患者さんには漢方薬治療をおこなう場合もあります。
・精神治療・
症状の中心が不眠や気分の落ち込みなどメンタル面の不調の場合、睡眠導入剤や抗うつ剤・抗不安剤などの薬や、カウンセリングによる治療を併用していきます。
更年期はホルモン環境などの身体的な変化に加えて、心理的、精神的にも大きな変動のある時期で、閉経による女性性の喪失感、老化による容貌・容姿の変化、老化に対する不安、ガンや成人病に対する不安などによる葛藤があります。
また、社会的にも夫の社会的活躍や子どもの成長による親離れによって家庭や社会からの疎外感や孤独感を味わったり、夫の定年問題、近親者や友人との死別、子どもの就職・結婚などによる淋しさを感じたりしやすい状況がうつ状態を助長することがあります。
◆ 更年期は最も円熟し、能力を発揮できる時期です ◆
更年期は体力、性的能力、生殖機能は衰えますが、知的能力、情緒面ではピークを迎え、この年齢にある女性は人間として最も円熟し、能力を発揮できる時期でもあります。
適切な治療を受け、快適に過ごすようにしましょう。
更年期は誰もが経験するものなので、多少の体調不良があっても日常生活には全く支障がないのであれば、絶対に治療しなければいけないというものではありません。この時期は、心身の色んな不調が出やすいのと同時に、今まで多少無理ができていた人でも体力や抵抗力が落ちる年齢ですので、そのことを自覚した上で日常生活を見直していくといいでしょう。更年期の過ごし方は、全てにおいて今までの8割くらいにペースダウンすることがポイントです。