◆ 社会不安障害は、初対面の人と会う、人前でスピーチをするなど、対人状況で生じる強い恐怖感と不安症状です ◆
社会不安障害は最近では社交不安障害とも言います。どのような病気かといいますと、人前で注目が集まるような状況で、強い不安や恐怖、緊張を感じ、何か失敗して自分が恥をかくのではないかという心配とともに、赤面、手足の震え、動悸、吐き気・嘔吐、尿意などといった身体的な症状が現れる病気をいいます。
初対面の人にあいさつをしたり、大勢の人の前で話そうとすると、声がふるえたり赤面してしまうことは、誰しも経験したことがあると思います。
しかし、このような状況に対して、過剰に「失敗したらどうしよう」、「恥をかいたらどうしよう」という思いにかられ、強い苦痛を感じたり、身体的な症状が現われたり、同じような失敗をくり返すのではないかという恐怖心が募り、人前に出られなくなる(出るのを避けるようになる)など、日常生活に支障をきたすようになると、社会不安障害の可能性があります。
日本では場の空気を読むことが大切にされがちなためか、社会不安障害はしばしば見られ、決して珍しくない病気です。
日本では約150万人以上いると推測されています。
10歳代(思春期)といった比較的若いときに発症することが多く、性格や気持ちの問題と思い込み、病気であると認識されずに、医療機関を受診しないまま、悩みや苦痛を抱えて長年過ごしている人が少なくありません。
◆ 社会不安障害になる原因は、単一の要因ではなく複数の要因が関与しています ◆
本人のもともとの内気な気質や、本人の中で心の傷になってしまうような対人状況における失敗、また、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやドパミン(いずれも、意欲や気力といった感情の安定に深くかかわっている)のバランスが崩れてしまうことで神経が過敏になり、不安感や恐怖心、緊張感が強まってしまうとも考えられています。
さらには、家庭環境などが挙げられます。
原因となる家庭環境もさまざまですが、例えば厳格な家庭でいつも叱られて育てられた場合、自分に自信が持てず、他人の前で不安を覚えやすくなることがあります。
また、まじめで自分への要求水準が高い人、他人の評価を気にする人も社会不安障害にかかりやすいと言われています。
◆ 治療は薬物療法を中心に、心理療法(認知行動療法など)も行われます ◆
社会不安障害の治療の目的は、「恐怖や不安を取り除くこと」や「恐怖や不安を感じる状況を避けようとする行動を減らすこと」、そして「日常生活の質を改善・向上させ、その状態を維持することによって、人生の質を改善・向上させること」にあります。
・薬物療法・
薬物療法の基本原理は、不安症状と深いかかわりのある脳内神経伝達物質の不具合を調整することにあります。
不安、焦燥感の軽減、不眠、気持ちの落ち込みなどを軽減することが可能です。
どの薬物が用いられるかは患者と薬との相性の問題もあり、個々のケースによりますが、一般的には脳内神経伝達物質のセロトニンを調整するSSRI、セロトニンとノルアドレナリンの両方を調整するSNRI、抗不安薬などが用いられます。
・心理療法・
心理療法では、認知行動療法などの手法で、対人恐怖を増幅させる心理的問題に対処します。例えば「自分は周りの人と比べて劣った存在であり、いつも軽く見られている」といったネガティブな意識が強いと、他人の注目を浴びる場面で強い不安反応が起こりやすくなります。
こうした思考の歪みは長い期間を経て本人の気質の一部のようになっているので、自力で認識し、矯正することは容易なことではありません。
思考の歪みを改善して健全な方向へ矯正すると共に、不安が生じる状況や環境を避けるのではなく、段階的にあえて直面して訓練を積んでいきます。
◆ 治療開始が遅くなればなるほど、症状が重症化かつ慢性化します ◆
さらに、うつ病、アルコールなどへの薬物依存など、他の心の病気を合併しやすくなります。早期に治療を受けましょう。
対人場面で上がってしまい思ったようにできないことは、生活の質(QOL)が下がることにとどまらず、受験や就職など人生の岐路で、また、仕事や人づき合いなど社会人としての重要な場面で、本来の能力を発揮することができないということにつながります。
それは、恋愛や結婚にもおいても同様です。人生におけるさまざまな場面でつまずいたり支障をきたしたりすることは、人生の質を大きく低下させてしまうといえます。
社会不安障害が深刻化してしまうまで、未治療のまま放置されることも少なくありません。社会不安障害が起きるのは、決して性格的、能力的に直せない問題を抱えているからではありません。
社会不安障害という治療可能な病気にかかっているためだということをまずは知ることが大切です。
人前で不安・緊張が高まり、時にはドキドキしたり汗をかいたりするのは当然の反応ですので、それを恥ずかしい、異常と考えないことがポイントです。
引きこもってくよくよ考えるとますます恐怖感は強くなりますから、思いきって外に出てみることです。
また、人に相談にのってもらうことや話し方・人との接し方などのソーシャルスキルを習得することも自信の裏づけになります。