◆ うつ病は、めずらしい病気ではありません◆
気分が落ち込んだり、憂うつな気分になったりすること自体は、日常生活で誰でも経験する事です。
ところが、原因が解決しても1日中気持ちが落ち込んだままで、いつまでたっても気分が回復せず、強い憂うつ感が長く続く場合があります。
このため、普段どおりの生活を送るのが難しくなったり、思い当たる原因がないのにそのような状態になったりするのが、うつ病です。
うつ病は、一生のうち、人口の10%近くの人がかかるとも言われています。
◆ うつ病は、まだわからないことが多い病気です ◆
脳の神経の情報を伝達する物質の量が減るなど脳の機能に異常が生じていると同時に、その人がもともともっているうつ病になりやすい性質と、ストレスや体の病気、環境の変化など、生活の中のさまざまな要因が重なって発病すると考えられています。
◆ うつ病の2種類の症状 ◆
・精神症状・
はっきりとした原因がなく、深刻なうつ気分に陥ってなかなか抜けだせないことが病的なうつ状態とされています。
うつ気分には、憂うつ感、悲哀感、興味や喜びの感情の喪失などがあります。
何をするにも億劫、意欲の低下、集中力の低下、決断力の低下、性欲の低下、行動の遅滞など生命エネルギーの減退による意欲・行動の障害が現れます。
考えが進まない、まとまらないなどの思考の抑制や自分、社会、将来に対しての悲観的な考え方が多くなります。
・身体的症状・
よくみられる身体症状としては、全身倦怠感、食欲不振、不眠、頭痛、肩こり、めまい感、性欲減退、聴覚過敏(耳鳴り)、口渇(こうかつ)、胸部圧迫感、心窩(しんか)部(みぞおち)不快感、吐きけ、腹痛、便通異常、腰痛、手足のしびれなどが現れます。
これらの症状が、1日のなかで時間とともに変化するのも、うつ病の特徴です。多くの場合は、朝が最も悪く、夕方にかけて回復していきます。
また、うつ病には周期性変動のあることが知られており、1年~数年の周期で反復したり、季節的に春と秋に悪くなったりするケースが多いとされています。
◆ うつ病と正常範囲の気分の落ち込みを分ける境界はあいまいです◆
うつ病での気分の落ち込みは、その症状の深刻さと症状の持続期間によって、正常範囲の気分の落ち込みと区別することになります。
面接を行い、症状、ストレスになるような出来事、生活歴、過去の病気の有無、家族に似たような心の病気の人の有無など、広範囲にわたって、詳細な情報をお聞きします。
また、その時の本人の表情や話し方なども重要な情報になります。
これらの情報を総合して、うつ病の診断を行います。
◆ うつ病を改善する3つの方法 ◆
うつ病の治療の基本は、十分な休養によって心と体の疲れをとることと、薬によって神経伝達物質の異常を改善することです。
さらに、考え方などを見直す精神療法を組み合わせることもあります。
・休養・
うつ病は心身の疲労状態ですから、休養をとることも大切です。仕事のペースを落としたり、しばらく休暇をとったり、場合によっては入院したりすることも必要です。
医師に休むことをすすめられた場合は、思い切って仕事や家事や学校を休み、治療に専念しましょう。
・薬物療法・
抗うつ薬が薬物療法の中心となります。
抗うつ薬は、脳の中のセロトニンやノルアドレナリンという物質のはたらきを高めて、抑うつ気分を取り除いて気分を高め、意欲を出させ、不安や緊張、焦燥感を取り除く、といった効果を現します。
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、三環系、非三環系といったタイプがあり、症状や状態によって使い分けます。
服薬を始めてすぐに効果が現れるわけではなく、一般に1週間から3週間の期間が必要です。通常、治療を始めてから2カ月から半年くらいである程度よくなりますが、症状が改善したあとも服薬を続けることが必要です。
再び悪くなるのを防ぐため、通常の生活に戻ってからも半年~1年くらい治療を続けることがすすめられます。
うつ病の再発率は高いのですが、効果が出た時と同じ量の薬を服薬し続けていると再発率が低くなります。
ですから、初めてうつ病になった場合には改善後半年から1年、同じ量の抗うつ薬を服用することがすすめられます。
また、2回以上再発している場合などには、数年にわたって服薬することが望ましいとされています。
そして、これらの薬はあくまでも医師から処方してもらい服薬指示を守ることが大切です。
・精神療法・
精神療法の中心となるのは、支持的精神療法です。患者さんの話を聞き、不安な気持ちをよく理解したうえで、症状をよくしていくためのアドバイスをしていきます。
このほか、抑うつ気分につながりやすい考え方や行動の特徴に気づき、これを修正する認知行動療法も広まっています。
◆ 「最近おかしいな」と思ったら、早めに医師に相談することです ◆
軽症のうつ病で、うつ症状が軽く身体症状が強いために、患者さんは内科を訪れることになります。しかし、そこでいろいろな検査をして「異常なし」ですまされてしまうことが多いので、うつ病が見逃されてしまうことが少なくありません。
うつ病は、きちんと医師の診察を受け適切な治療を受ければ、治すことが可能な病気です。
うつ病の治療では、何よりも信頼できる医師にかかることが大切です。
当クリニックでは、診察所見、病気の程度、治療方針や薬の作用、副作用についても患者さんに納得していただけるようにご説明しています。
◆ 出産後は、女性の心にとって、危険な時期です ◆
出産後は、体内の女性ホルモンが急激に変化し、生活環境からの相当なストレスがあり、心の病気にとって危険な時期です。
それまでまったく精神的な障害がみられなかったのに、出産をきっかけに気分が落ち込んだり、あるいは逆に興奮状態になったりすることがあります。これは出産というストレスに対する反応で、一般的に数時間から数日で症状がなくなります。
なかには、もう少し長期間にわたって症状が続く場合があり、これにはマタニティー・ブルーと産褥うつ病があります。
・マタニティー・ブルー・
出産後、一時的に気分の落ち込む、マタニティー・ブルーは多くの女性が経験します。
日本人では約10%に認められるといわれ、産後の育児不安に伴う正常な反応と考えられています。
症状の出やすい時期は産後10日以内で、ほとんどは数日でなくなります。しかし、マタニティー・ブルーから産褥うつ病に移行することもあります。
・産褥うつ病・
人によっては、産後1~2カ月の間に徐々に元気がなくなり、家事や育児をやりたくなくなり、非常に気分が落ち込んでしまうことがあります。マスコミなどで育児ノイローゼといわれているものが産褥うつ病です。
原因として、育児に対する過度の不安、母親としての無力感、孤独感、家族との人間関係の葛藤が生じた場合、育児による疲労と重なって気持ちの不安定さが増加するためと考えられています。
また、出産に伴う母体内での急激なホルモン環境の変化との関連も考えられています。精神的にも肉体的にも大きな負担がかかる時に、産褥うつ病が発症してしまう事があります。
時間の経過とともに、育児に対する慣れ、生活上の工夫、家族の協力などにより徐々に回復することも数多くありますが、なかには精神障害になったり、子どもの虐待へ至ったりすることもあります。
本人は自分の病的な状態に気づいていなかったり、自分の状態を口にしたがらなかったりする事が多いため、周りの人が見逃しやすい事は大きな問題です。もしも、周りの人が、異変に気付いた場合はすぐに精神科や神経科へ一緒に行かれるのが良いと思います。
マタニティー・ブルーや産褥うつ病の一般的な対処方法としては、周囲の人は産後のこのような気分の変化を十分理解して、本人を決して叱ることなく、温かく見守りながら、同時に睡眠を十分にとってもらい、心身の疲労・負担を取り除くために協力することがとても重要です。
また、保健所などで育児相談をしたり、同じ環境にあるお母さん同士のコミュニケーションをとったりすることも有効です。
症状が回復しない場合は、早めに医師に相談してください。